映画「ピアニスト」あらすじ(ネタバレ) 感想と評価
映画「ピアニスト」
ミヒャエル・ハネケ監督の作品「ピアニスト」。
カンヌ映画祭でグランプリを受賞したのだそうです。
映画の説明では、中年のピアノ教師・エリカの異常な「性的倒錯」や「妄想」が描かれているとあったので、観る前からちょっと緊張してしまいました。
観終わった後では、エリカが異常であり性的に「倒錯」しているのかどうかは、人によって判断が分かれると思いました。
あらすじ、 感想と評価 *ネタバレ注意
ピアノ教師・エリカは厳格な母親に育てられ、40歳を過ぎても母親の過干渉のもとで生活しています。
彼女の人生は母親の願い通り、ピアノだけに捧げられ、音楽だけが彼女の生きる道になっています。
おそらく現実の男性と性関係を持つ機会のなかったエリカは、母親の厳しい干渉の目を逃れて、ひそやかに彼女独自のやり方で性的欲望を満たしています。
その彼女のやり方は、常軌を逸していると言う人もいるかもしれないけれど、彼女は彼女なりに自分の抑えきれない欲望のはけ口を求めているのであって、私はそんな彼女の姿に胸の痛くなるような同情と哀れみを覚えました。
どんな人でも性に関しては、理性では制御できない欲望や妄想をひそかに抱いていると思うのです。
彼女は誰に迷惑かけているわけでもなく、自分なりにそれに対処している。
昼間は有能で世間の尊敬を集めるピアノ教師として働き、夜は性の世界を孤独にさまよう。
エリカは昼と夜の世界の間で、ギリギリのところで危うくバランスをとっている。
イザベル・ユペールの演技が素晴らしく、常に毅然とした表情で、ピンと神経の張りつめたエリカが怖いほど美しく見えました。
シューベルトのピアノ・トリオや、ブラームスの弦楽六重奏曲など、音楽の繊細な旋律が物語の緊張感を高めていました。
そんなあるとき、ハンサムな好青年・ワルターが現れ、エリカに一目ぼれをして執拗につきまといます。
彼を愛してしまうことにより、エリカの危ういバランスは脆くも崩れてしまうことになります。
恋愛経験のないエリカはおそらく、性的な妄想と現実の恋愛とは異なるのだということがわからなかったのではないでしょうか。
愛した男性が自分の密かな性的欲望を満たしてくれるものだと思い込み、ワルターに赤裸々にマゾヒズム願望の告白をしてしまいます。
年若いワルターはエリカの告白を受け止めきれず、困惑し、怒り、彼女を突き放します。エリカにとってはきっと必死の告白だったのですが、ワルターは残酷にも軽蔑と嫌悪感をあらわにします。
しかし、彼は知らず知らずのうちに彼女の性的欲望に引きずり込まれてしまい、彼自身の欲望を制御することができなくなっていきます。
ハンサムな好青年だったワルターが変貌し、暴力的な欲望に取り付かれて支配されていく様子は、背筋がゾクゾクするほどの迫力で恐ろしかった。。
ワルターはそもそもなぜエリカに惹かれてつきまとったのだろうと不思議に思いました。
人間が惹かれ合うとき、無意識に、お互いの心の深層に潜む欲望同士が惹かれ合っていることがあるのかもしれません。
彼らはお互いに「愛している」と言い合いますが、彼らの「愛」は、すさまじい欲望のぶつかり合い、もつれ合いによって絶望的に粉砕されてしまいます。
その様子が恐ろしくて、痛ましかったです。
エリカが自分の感情を刺し殺すかのようなラストシーンは衝撃的でした。
それまでの人生の全てであった音楽にも背を向けて、毅然としてコンサート会場を去るエリカ。
彼女が向かった先はどこなのでしょう・・・
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